背けない視線が、心をざわつかせる。

リビングの窓から差し込む午後の光。いつも通りの空気なのに、ふと視線が重なった瞬間、時間が止まった気がした。息が「すっ」と浅くなるのを、自分でもはっきり感じる。

指先がコーヒーカップに触れる音さえ、妙に大きく響く。それだけで喉がからからになり、息が詰まりそうになる。自分の鼓動が耳の奥で「どくん、どくん」と響いて、逃げ場を失っていく。

肩越しに感じる気配。手が触れたわけでもないのに、背筋が「ぞわっ」と熱を帯びる。視線がゆっくりと動くたび、胸の奥までかき乱されるようで落ち着かない。

壁掛け時計の秒針の音すら遠のいて、耳に残るのは自分たちの呼吸だけ。額から「つー…」と伝う汗が、顎先でぽとりと落ちた。それを見ているだけで、さらに呼吸が乱れる。

理性を揺らす、わずかな触れ合い。

ほんの一瞬、手の甲がかすった。たったそれだけで、心の奥に「じん…」と熱が広がる。その熱は足先まで染み込んで、もう引き返せないところまできていた。

何度も深呼吸をしても、酸素が足りない。目を逸らせば楽になれるのに、逸らせない。視線が絡むたび、心が「もっと」と囁く。

ただ求め合うのではなく、存在ごと包み込むような温度。そこにあるのは、肯定と許し、そして無防備な自分。だからこそ、全身でその時間を抱きしめたくなる。

この作品は、一色桃子が演じる、母としての葛藤と女としての衝動を描いた物語。日常の延長に潜む微かな揺らぎが、やがて全てを飲み込んでいく。観る側もまた、その渦に引き込まれ、呼吸さえも支配されていく。

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